http://www.jacom.or.jp/closeup/agri/2014/agri140922-25403.php
〈転載開始〉
・低価格な新米が客寄せに
・一段と安くなった概算金
・多様化するニーズに応える
生産者の皆さんが丹精を込めて作られた新米が食卓にのぼる嬉しい季節になった。しかし、生産者の皆さんの表情は明るくない。なぜなら、今年もまた米価が下落し、新米価格が古米価格より安いという「逆転現象」となっているからだ。その実状を取材した。
◆低価格な新米が客寄せに
農協から生産者に渡される26産米の概算金は、新潟の一般コシヒカリの場合、すでに一般紙などで報道されているように昨年より1700円(12%)安い1万2000円となっている。これは近年でもっとも安かった22年の1万2300円より300円安い概算金となっている。
概算金が1万円を超える銘柄は、新潟の岩船、魚沼コシ、福島の会津コシ、富山コシ、福井コシ、石川コシ、兵庫の丹波コシ、山形のつや姫、福岡のゆめつくし、北海道のななつぼし、きらら、ゆめぴりかだけで、他の銘柄は1万円に届かず、関東のコシヒカリは900円から8000円で昨年より3900円から2500円(およそ33%〜23%)安くなっている。22年産米との比較では、1500円から2000円安だ。
米どころ東北では宮城県のひとめぼれは昨年より25%・2800円安の8400円(22年産米より300円安)、岩手のひとめが昨年より2800円安の8400円、秋田のあきたこまちが3000円安の8500円、福島浜通コシは4200円安の6900円など、軒並み9000円にも届いていない。
記者の手元には、約60銘柄について25年産米と26年産米の概算金を記入したリストがある。25年産米では、1万円以下はたった1銘柄だったが、26年産米で1万円を超えたのは、前記の13銘柄だけで、他は軒並み1万円を下回り7000円台から9000円台となっている。
25年産米より3000円以上安くなっている銘柄も埼玉の彩のかがやきの4200円安をはじめ24銘柄ある。ちなみに25年産米も24年産米より概算金の水準は下がっていたが、下落幅は1000円から2500円程度だったので、26年産米では「さらに一段と安くなった」といえる。
農協から米卸への販売も、全農は銘柄ごとの「相対販売基準価格」を示しているようだが、こうした概算金の状況を反映して、実際にはそれをかなり下回って取引きされているといわれている。本紙が入手した情報によれば、例えば千葉コシの場合は、概算金(9000円)と同額から150円〜400円程度乗せた金額で取引されている(以上のデータはいずれも本紙が独自に調査した9月11日現在のもの)。「これでは生きていけない」と、再生産が可能な米価を求める生産者の悲鳴に近い叫びが聞こえてくる。
消費地ではいくらで新米が販売されているのか。本紙では、首都圏の量販店、食品スーパーなどのチラシを集めて調べてみた。集まったチラシは18社の49枚。銘柄別・県産別・年産別・販売単位重量別・無洗米か否か別に集計して価格を調べた結果をまとめたものが下表だ(いずれも税抜き)。
8月上旬の宮?コシに始まり、高知コシ、千葉ふさこがね、同ふさおとめと続き、8月下旬から千葉コシ、茨城あきたこまちが加わり、いまは千葉コシと茨城のこまちが中心となっているが、チラシ(店頭)価格はいずれも昨年よりは1割以上安くなっている。
表の千葉ふさこがねの最低価格1198円は「先着50名様限定」とチラシでうたっているように「客寄せ」の目玉で、同じような扱いをしているチラシも数点あった。
チラシに表示されていたのは26年産米新米だけではなく、25年産米を並列表記しているものや、25年産米を目玉商品としているもの、北海道関連イベントのなかに道産米を位置づけている店もあり、新米の方が安いという「逆転現象」のなかで、古米となる25年産米を売り切る工夫をしている様子がみえた。
量販店や食品スーパーにとってコメという商品は「売り上げをつくる大事なアイテム」だという。5kg2000円のコメなら、100袋で20万円、150袋で30万円の売上げとなる。平均200円前後の野菜で同じ売上高を確保しようとすると、20万円なら2000個、30万円なら1500個売らなければならない。日々の売上げを確保するためには、1個(袋)当たり単価の高いコメは大事な商品なのだ。
だから、客寄せのために、月末や週末にコメ価格を下げたり、店頭価格より2割引きにするとか、ポイントを多く付与するなどのサービスをする店は多い。チラシに表記されているコメは、スーパーなどの店頭で販売されているコメのほんの一部だ。チラシに記載さていないコメの方が多い。
◆一段と安くなった概算金
店頭でみていると、チラシ掲載の新米ではないコメを購入する人も多い。そんな主婦に聞くと、25年産米も週末サービスで安くなっているから「いつものおコメを買います」という答えが返ってきた。
9月の下旬以降、新潟や東北など米どころのコメが首都圏に登場してくる。農水省によれば、6月末の民間流通在庫米は222万tある。新米の価格がこれだけ下がっている中で、どうこの在庫米を販売していくのか。
農水省の「米に関するマンスリーレポート」最新版によれば、コメの小売価格は毎月前年同月比マイナスで推移し、8月はコシヒカリが前年同月比▲4.3%、コシ以外が同▲7.4%となっているが、この傾向がさらに続いていくと思われ、農業経営をさらに圧迫していくのではないかという危惧を強くする。
これから何を考えていけばいいのか?
コメの消費が減るなかで、中食や外食の割合が増えており、これに対応する必要があると、JAグループでも強くいわれている。一方、家庭用需要でも5割近くの人はスーパーから購入しているが、近年の傾向としてネットショップからの購入が10%を超え、生協や生産者から直接購入を上回っている(「米に関するマンスリーレポート」)。こうした流通形態の変化にどう対応していくのか。
さらに購入にあたって重視するのは、「価格」が78.1%で第1位だが、次いで「産地」61.1%、「品種」56.4%となっているが、「安全性」33.7%を14ポイントも上回って4位に「食味」(おいしさ)47.6%が入っている(同上)ことに注目すべきだという指摘がある。
本紙連載の「いま食のマーケットは」でも指摘されているように、消費者の価値観は変化し多様化している。コメに対して「価格を重視」する人もいるが、多少高くても「美味しさ」を求める人がいる。その人たちのニーズにどう応えるかだ。
そう考えたときに、アイリスオーヤマの精米・販売方法に注目する人が増えている。同社は玄米保管から精米まで15℃という低温工場で行い、さらに包装段階で工夫することで「おいしさ」を従来の精米よりも長く持続させている。
この低温の流れを精米工場段階だけではなく、流通から小売店での販売まで延長し、家庭でも冷蔵庫で保管という「チルド」を完結させる。そのコメを炊いて食べることが、本当に美味しいコメの食べ方だということを、「おいしさ」を求める人に向けて情報発信し理解してもらうことで、今までとは異なるマーケットを創りだしていけるという考えだ。
(写真)
小売店に並んだ新米。25年産米より安い新米も店頭に並ぶ
◆多様化するニーズに応える
小売店ではいまはラック棚に並べたり、床に置いたパレットに米袋を積み上げている。価格や量を求める人にはそれでいいが、本当の美味しさを求める人には、新たな機器を入れなくても、コンニャクなどチルドにする必要のない商品を移動させ替りにコメを並べ、周囲においしい漬物や惣菜類を置くという提案だ。
さらに、白飯としてだけではなく、炊き込みや炒飯、カレーのように具をのせるなど、調理や食べ方にあったコメを作り、提案することで、よりコメの「おいしさ」を認識してもらう。
それには、流通・小売だけではなく、産地・生産者も一緒になって考え連携して取組むことが大事だといえる。
人口の減少や高齢化でコメの需要は減少していくといわれている。そうしたなかでコメの需要を喚起するためには、今までとは異なる方法や発想も大事になってくるのではないだろうか。そのことで、厳しい現実に少しでも明るい光がさせばと願わずにはいられない。
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